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[対談] BLUE ZOO有限会社
代表 青柳竜門氏 × 播戸竜二

2017.10.31 UP

地域社会とともに歩み、成長する

ビジネスの推進力はお金儲けではなく、自分を育んでくれた地域への貢献だと考える。そんな青柳さんの考えはどこから生まれてきたのか?
そしてタクシーを通して社会に還元できる価値とはなんなのか?パンダタクシーで青柳さんが運びたいのは、人やモノではなく、きっと“幸せ”なんだと思う。

 

播戸 今後の展望は?

青柳 福岡市内で500台にしたいですね。それでしっかりサービスができれば、地域の高齢化や少子化の問題にも少しは貢献できる。いまの規模だとやりたいことが全然やれていないですから。2013年度の内閣府発表の資料によると、高齢者(65歳以上)の人口割合は45年後には約2倍に膨らむと予想されています。そんな高齢化社会における公共交通機関は、従来の大量輸送型の交通機関ではまかない切れません。それに加えて、子連れのパパママには移動が大変だと感じる人も多い。そうした人たちに、近距離でも気軽に利用していただきたいんです。現状だと予約の電話を受けてから、お迎えに上がるまで何十分もかかったりしますが、どこにいても10〜15分ぐらいで対応できる体制づくりをしたいと思っています。

播戸 そのようなサービスを、日本各地で展開しようとは思わないのですか?

青柳 将来的に、M&Aでの拡大はあるかもしれませんが、タクシー事業は結構タフなパワーを使うので、次は海外を目指したいと考えています。

播戸 具体的な進出地域は決めていますか?

青柳 50才まで、という目標設定だけ(笑)。実は、30才で起業したときに海外進出は35歳というロードマップがあったんです。完璧になめていましたね(笑)。でも、あとは10年というリミットをつくって、そこに向かって突き進むだけだと思っています。盤石の布陣をつくって、それで世界に打って出る。この先の10年で、まずは海外からのお客様を外国語で観光案内するサービスを確立したい。海外だとある程度英語をみんな話せるし、乗務員がガイドも兼ねるんですけれど、日本にはそういったサービスがほぼないんですよ。今後、日本は少子高齢化が進んで、人口が減少していきますよね。経済規模が縮小していくと、それを盛り上がるのは観光しかない。だから、海外からのお客様を福岡経由で、九州のいろんなところにお連れするサービスを今後つくっていきたい。そうすることで、九州全体に貢献できると思っています。

播戸 そんな郷土愛は、いつ芽生えたんですか?

青柳 例え億万長者になれたとしても、お金だけの人生って虚しいと思うんですよ。人間は社会のなかで生きているし、ある意味、生かされていますから、社会になにかを還元することで、充実した人生を生きられると思うんです。だから、社会貢献をしたいというより、結果的にそれが自分の達成感や、やりがいにつながるという思いのほうが強いですね。

播戸 海外進出の際も、そうした土地に対する思い入れはもてるものでしょうか?

青柳 日本のサービスの質の高さを海外に伝える役割もあるし、その地域のためになるというのがモチベーションになります。以前は、海外でタクシー会社をつくろうと考えていたのですが、いろいろやっているうちに、必ずしもその形態にこだわらなくてもいいと思うようになりました。国際協力関係機関などと連携して海外進出するのもひとつの手段かもしれないし、いまはあらゆる可能性を探っている段階です。究極、僕は便利なものをつくりたいだけなのです。自分が考えたサービスが、その地域に暮らす人たちの不便を解消するものになればいい。いまはそれがたまたまタクシーですけど、今度は新卒を中心にして“ドライブアテンダント”という、タクシー事業とは分けた領域でサービスを展開していきます。いまこれだけ時代の流れが速いですから、10年経ったら別世界だと思うんですよ。その別世界のなかで必要とされる便利なものを、この10年間で発想豊かな若い世代を中心に人材をしっかりと育てて、海外に進出していくイメージですね。

播戸 話が壮大ですね。ちなみに、ドライブアテンダントとはどんな職業なのでしょう?

青柳 わかりやすく言うと、キャビンアテンダントのようなタクシー乗務員ですね。多言語の外国語を話せて、九州全体の観光案内ができて、ホスピタリティ溢れる接客サービスができる。そういう人材をこれからたくさん育成していきたいと考えています。その結果、福岡のタクシー業界の評判がよくなれば、地域の市場の活性化にもつながる。そのために、これからも革新的で常識に捉われないサービスを積極的に提供していきたいですね。

播戸 社会貢献したいという気持ちは、いつからあったんですか?

青柳 僕は人間を幸せにするのはお金じゃない、という考えが根底にあって、そのためだけに生きていくのは死ぬとき絶対に後悔すると思うんです。たまに、経営者の人たちが集まる青年会議所や経済団体の会合で、みんなでこういう社会貢献をしよう、といった議論をするのですが、むしろ僕は、社会貢献自体をビジネスにしてしまえば、いろいろやらなくてもいいのにな、って考えるんですよ。よく億万長者の人たちが財団を築いたりするじゃないですか。たくさんお金を儲けてそういう気持ちになるんだったら、最初からそれをビジネスにすればいい。それで収益が上がるビジネスモデルを考えたほうが絶対に早いと思うんです。

播戸 最後に、経営者として大事にしていることはなんですか?

青柳 嘘をつかないことです。特に、小さな嘘をつかないようにしています。僕たちが集めているのは、売り上げとか利益とかではなくて、信用なんです。あの人が言うことだったら信用できるとか、あの人に任せておけば大丈夫だといったものをかき集めて、それでお客様から対価をいただく。そのためには馬鹿正直とか、真面目というか。だから小さな嘘をつかないように意識しています。なんだか、話が自分の頭の中で整理できていませんね(笑)。なんで自分はタクシー業界を志したんだっけと思いましたから……。当時に戻って、そのときの気持ちを自分に聞きたいくらいです(笑)。

 

今回の取材を終えて、いつもとは違う青柳さんを感じ取ることができた。特に、心に強く残ったのが、“いつも瀬戸際に自分を追い込もうとしている”という言葉。僕もアスリートとしてその心境は痛いほどよくわかるが、思っているのと実行するのは大違いで、それを継続する大変さは身をもってわかっているつもりだ。


ひと口にビジネスといっても、そのジャンルはさまざまである。でも、この気持ちの強さと周囲に対する愛情が、僕の“ミライの歩き方”の指針になるかもしれない。
青柳さんが海外進出予定の50歳を迎えたとき、お互いの近況を報告しつつ、またお話をうかがう機会があったら最高だと思う。

 

Words: Toshiaki Ishii   
Photos: Minoru Omae

 

プロフィール

播戸竜二/バンド リュウジ

1979年8月2日生まれ
1998年ガンバ大阪に入団
2000年コンサドーレ札幌に移籍
2002年ヴィッセル神戸に移籍
2006年ガンバ大阪に復帰
2010年セレッソ大阪に移籍
2011年3月9日にMR12を設立
2013年の夏にサガン鳥栖に移籍
2015年から大宮アルディージャに移籍

今年プロ20年目の若手ストライカー
サッカーとビジネスに日々全力な37歳
 

青柳竜門/アオヤギ タツト

BLUE ZOO有限会社 代表取締役
1976年福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、世界各国を約2年かけて放浪。
25歳で帰国し、2007年に福岡市で小型タクシー10台、
初乗り運賃290円・加算運賃2割安で「パンダタクシー」を創業する
(2014年4月1日より消費税引き上げに伴い、初乗り300円に料金改定)。

以降、急ピッチで成長を続け、翌年12月には合計79台に増車。
11年に別会社「パンダ旅行」を設立し、旅券の手配からパック旅行、
パンダタクシーを利用した観光巡りなど、新規事業に乗り出す。
九州の玄関口・福岡から、アジア太平洋地域への進出を目指している。


パンダタクシー
歩合給(売り上げに応じた給料)が一般的なタクシー業界に、
完全固定給(売り上げではなく接客態度や安全運転などで決まる給料)の制度を導入。
さらに、予約中心の配車システムを確立することにより、実車率を上げ、
乗車料金が安くても丁寧な接客サービスを実現させた。予約乗車は全体の約9割。
無料会員登録数は20万人を超える。一流のホテルマン、
キャビンアテンダントに負けない質の高い接客と、100円バスにも負けない廉価な料金設定と
利便性を兼ね備えた“バスでも、ハイヤーでも、タクシーでもない新しいサービスをスローガンにする。

http://pandataxi.com
 

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